内藤國雄九段の『初段最短コース』は、そのタイトルから受ける印象とは大きく内容が異なる一冊です。
普通、初段最短コースと聞くと、初段への距離を一気に縮められるような即効性の高い手筋や戦法などが書かれたもの、という印象を受ける方が多いのではと思うのですが、本書はそういった内容ではありません。
実際、第一部の冒頭の文章の中には、次のような一節があります。
本書は定跡書でも戦法書でも、また手筋の集録書でもありません。強いていえば、将棋の基本的な問題や根本的な考えといった点に触れたものです。読者の将棋感覚を養成して、その方面から棋力上達をはかるものです。
本書の内容は基本的にはこの文章のとおりで、将棋の持つ様々な要素・側面について著者の内藤國雄九段が考察を巡らしたり、これまでの経験の中で既に結論に至っていることを読者に伝えたりする、というのが主な内容となっています。
実際、「第一部 初段最短コース」の章立てを見てみますと
- 第1章 手の感覚
- 第2章 駒の感覚
- 第3章 王将の感覚
- 第4章 駒の展開
- 第5章 投了図の研究
となっており、記憶すればすぐに使えるような手筋や詰み筋はどこへやら、といった内容です。
しかし、実はこのアプローチが、様々な有効な手筋や勝ちやすいと言われる戦法を覚えてきたけれど、もうひとつ伸び悩んでしまっているといった方には有効になる場合があるのではないか、ということです。
そして、そのようなアプローチの書籍を探しておられる方がもしいらっしゃるとしたら、本書はなかなかの良書だと思います。
ひとつ、ややこしいのは、本書は事実上の合本的な内容の書籍だということです。
本書は第一部、第二部と分かれているのですが、第一部にあたる部分は過去に出版された書籍『初段最短コース』の再録、第二部にあたる部分は雑誌『将棋世界』の過去の号に6年にわたって掲載された内藤國雄九段の講座の内容を抜粋し、再編集して収録したものです。
ですから冒頭の引用部の内容が当てはまるのは厳密には第一部のみということになるのですが、書籍全体の8割くらいを読んだ印象では、第二部も似たアプローチで書かれているという印象があります。
ちなみに「第二部 駒の効用」の章立ては
- 第1章 角 その働きと感覚
- 第2章 飛車 その働きと感覚
- 第3章 香車の世界
- 第4章 桂馬の世界
- 第5章 金と銀
- 第6章 歩の用法
となっています。
基本的に、それぞれの駒について書かれていますので、第一部と比べますと、具体的でとっかかりをつかみやすい面があります。
そのため、もし最初から読んで内容がつかみづらく感じられるようでしたら、第二部の中の好きな駒のところから読んでいくというのもありかもしれません。
筆者は第一部の「投了図の研究」と、各章に何か所かある「実戦解説」以外はほぼすべてに目を通したはずですが、参考になる部分がいろいろとありました。
このようなアプローチをお望みでない方におすすめはしませんが、興味を持たれた方はチェックしてみてください。